今回は最近読んだ本の感想文を書きたいと思います。感想文を書くのは小学生以来ですが、宿題で書かされるのではなく、好きで書く感想文は楽しいですね。
「父が娘に語る経済の話」(ダイヤモンド社)。この本は、ギリシャの元財務大臣ヤニス・バルファキスさんの著書で関美和さんが英語版を日本語訳したものす。題名のとおり経済に関する解説本です。内容については、ネット上にも色々と書評が掲載されているのでここでは割愛するとして、FIREな生活をはじめた私がこの本を読んで最も印象に残ったことを書いてみます。
FIREな生活をしている身として、とても共感したのがモノの価値を「交換価値」と「経験価値」の2つに分けて、それぞれの定義や変遷などが語られている点です。
「交換価値」とは、あらゆるモノが取り引きによって売買される、いわゆる市場経済が発展する過程で浸透してきた価値基準のことです。現在ではお店で手に入る物質的なモノだけでなく、情報や労働力などもお金に換算される「交換価値経済」が当たり前になりました。
一方、「経験価値」はマーケティング用語で使われる顧客体験=CXのことではなく、この本では内発的動機付けによるプライス・レスな満足といった意味で使われています。つまり、友人から頼まれて一緒に庭掃除をしたり、被災地に出向きボランティアに参加するなど、誰かのために無償でおこなう行為で、金銭ではなく自分の心の充足に使われる時間のことを指しています。そして、はるか昔に主流だった「経験価値」はモノが大量生産・大量消費される交換価値経済下の現代では相対的にそのシェアを下げています。
この本を読んで、勤め人時代の私が抱いていた「働く意味」に関する違和感が何となく晴れました。
私は交換価値が主流の現代で普通にお金を稼ぐを目的に生活していました。お金がなければ欲しいものもやりたいことも、何も手に入らないと思い込んでいたのです。でも、実際に精神的な充足感を味わったのは、毎日の疲れを癒すために高級マッサージチェアーを手に入れた時ではなく、仕事とはいえ、保険金の支払い手続きのために東日本大震災の被災者宅に出向き、『わざわざ来てくれて、ありがとう。助かったよ』と言われた時でした。
この本に出合うまでは、こんな自分の気持ちを言葉で上手く表現できず、『みんなは何のために働いているのかなぁ、何に満足してるんだろう』と漠然と疑問に思っていました。それが、この交換価値と経験価値を知ったことで合点がいきました。
交換価値の浸透が技術の進歩を生み、人間の暮らしを豊かにしていることはすばらしいことで、経験価値のシェアが下がるのも納得できます。だからと言って経験価値に意味がなくなったわけではなく、むしろシェアが下がった分、希少価値は上がっているのです。FIRE生活をはじめてみて、このレアな経験価値を手に入れることの難しさと、手に入れたときの喜びを知りました。自分の手で野菜を育てて食べたり、誰もいない海岸を散歩したり、、、他の人にはまったく価値のない、交換価値ゼロの行動も私にとってはとても充実した時間なのです。
この本には価値基準の変遷だけでなく、「余剰が格差が生んだ」や「地球にとっては人間がウイルスだ」など、興味深い見識が他にもいっぱいあります。特に、最近ウイルスに振り回されている人類が、地球にとってはウイルス的な存在であると書かれていることは、すごく皮肉なことです。
とにかく、とても面白い本だったので、今の生活スタイルに少し違和感がある人や仕事に意義を見出せない人にとっては、違った角度から自分や時代を見る良いきっかけになると感じました。おすすめですよ!