感想文:世界標準の経営理論

今回は大学院卒業後に読んだ入山章栄著「世界標準の経営理論(ダイヤモンド社)」の感想文を書いていきます。この本は経営学に興味がある人や勉強している人などが読む本で、多くの人が目にすることはないのかもしれませんが、実生活でも役に立つ知識なんかもあるので、FIREな生活を始めてから感じていることを本の内容にを引用して説明していきます。

まずは「弱いつながりの強さ理論」です。これは前回の日記の最後に少し書きましたが、本の中ではイノベーションを起こすのは強いつながりの中からではなく、弱いつながりをたくさん持つことである、と説明しています。

確かに、24時間いつも一緒に生活している人同士だと、会話による意思疎通よりも以心伝心でコミュニケーションを取れて楽だという面はあります。でも、常に同じ情報に接しているため、お互いから新しい情報を得られることはありません。一方、弱いつながりの人たちとは普段からどっぷりと一緒に居て話をしているわけではないので、たまに話をすると新しい情報を得る機会が増えます。

そのため、弱いつながりの方が知識の交換や集積が活発に行われるため、イノベーションが起きやすい、というのが経営学的な理論の説明ですが、これは実生活でも当てはまると感じています。田舎暮らしというのは近所付き合いが面倒だ、など言われることもありますが、弱いつながりをたくさん持つことの方が圧倒的にメリットがあります。その一つが人脈(ネットワーク)をフル活用できることです。地元に密着している人たちは、その土地での生活をよりよくするために時間をかけて人脈を拡げていますが、それをそのまま借りることができるのです。例えば、家のちょっとした修理に専用の道具が必要だったとして、自分がその道具を持っていなくても地元の知り合いに聞けば、『あぁ、それなら〇〇が持ってるから、聞いてやるよ』で、解決してしまいます。こんな人脈を移住者が1から築くのは時間もかかるし、ほぼ不可能ですが、弱いつながりをたくさん持つことのメリットを理解していれば、移住当初から積極的に地元の人たちとの交流を楽しめると思います。多くの移住者が当たり前のようにやっている「地元に溶け込む」ことも、学術的に説明できるのは驚きです。

次は、「組織の知識創造理論(SECIモデル)」です。これは人の持っている知識は言語化できる「形式知」と、言語化や表現が難しい個人の経験など、いわゆる職人の勘などと言われる「暗黙知」に分けられ、ビジネスの世界ではこの暗黙知を周囲の人たちに伝えることの重要性が語られています。

そして、この考え方は実生活でも役に立っています。と言うのも、最近は地元の行事や会合などに顔を出すことが増えてきたのですが、独自のルールが多くて対応にまごつく場面が何回かありました。例えば、地域の守護的なお寺さんは地域住民が当番制でお供え物や読経することになっているのですが、先祖の仏壇にも気が向いた時にしか手を合わせないような、信心とは程遠い私にはなかなかのレア体験で、手順が書いてあるとはいえ『間違ったらどうしよう、、、』というドキドキの行事でした。

この時に感じたのが、手順を作る(マニュアル化する)ことは確かに重要ではあるけれども、移住者にとっては地元の人たちが持っている歴史観や地元愛のような暗黙知を伝えることも重要なのではないか、その方が移住者ももっと早く地域の一員になれるのでは、と感じました。

この本は、このような経営理論を約800ページ使って30も解説していて、相当に読み応えのある1冊です。経営学を学ぶ人たちに向けた本ではありますが、視点を拡げてみると意外と身近なところでも役立つ理論もたくさんあります。興味のある人はお手にとってはいかがでしょうか。