感想文:FACT FULNESS

今回は大学院の卒業間際に読んで、とても影響を受けた「FACT FULNESS」の感想文を書きたいと思います。

FACT FULNESSは、2019年1月に日本語版の初版が日経BP社から発刊されました。著者はハンス・ロスリング氏とその親族で、ものごとの見方や考え方など人間の思考の癖について書かれています。なぜ、今この本について書きたくなったのか、と言うとコロナやウクライナ戦争など世界規模の厄災をニュースで見ていると、「???」と思うことが増えたからです。このような思考パターンを植え付けたのが、この「FACT FULNESS」で、私自身はこの考え方をとても気に入っています。

まず、この本の内容を端的に言うと「思い込みを排除すると見えている世界が変わる」です。我々の脳は日々、膨大な量の情報を処理しているので、その負荷を抑えるために思考パターンを単純化するようにできています。いわゆる「本能」とか「直観」ってやつです。ただ、この「本能」が事実を歪めて理解させることがある、ということを10個のパターンに分けて解説してくれています。

例えば、第4章の「恐怖本能」では自然災害の死亡者数について書かれています。過去100年間で自然災害による死亡者数はどのように推移しているのか?という問いですが、「半分以下になった」と正しい答えを言えた人はたったの10%。何も知らない猿でも33.3%は当たるはずなのに、です。

そう言う私も、ここ数年の巨大地震や大型ハリケーン、津波、土砂災害などのニュースを見るにつけ、「ニューノーマル」と呼ばれる自然災害が常態化した世界を実感しており、被害者の数は増えてはいないまでも横ばいくらいだろうと思っていました。そうなんです、ちゃんとした事実を知らないのに自然災害のニュースを目にすることで恐怖だけが脳内で先行し、勝手に悪い方へと歪んだ解釈をしていたのです。そして、この本に書かれていたことを如実に感じたのが、コロナとウクライナ戦争です。

例えば、コロナに関するニュースはここ2年、ほぼ毎日ほとんどのメディアで何かしらの情報を伝えています。特に、感染者数や病床使用率などは日々の推移をグラフにして丁寧に報道されていますが、ここに「???」と感じるんです。これは「第5章:過大視本能」に書かれていることに私が共感したからでしょう。過大視本能は数字をひとつだけ見て『この数字はなんて大きいんだ』とか『なんて小さいんだ』と勘違いし、たったひとつの実例を重要視し過ぎてしまうことです。コロナでは感染者数が前日や前の週と比較して増えた減ったと一喜一憂しながら伝えられますが、そもそもこの数字は他の病気と比べて多いのか少ないのか、入院日数は他の疾患に比べて長いのか短いのかなど、コロナの脅威を正確に認識するためにはコロナだけの数字の増減だけでなく、他の疾病とも比較してみる方が正しく認識できるのでは、、、なんて考えます。コロナが怖い疾病なのは間違いありませんが、あまりに恐怖がいき過ぎて「あつものに懲りてなますを吹く」にならなければいいなぁ、とは思います。

また、ウクライナ戦争については「第9章:犯人捜し本能」が働いているように感じます。人には、なにか悪いことが起きた時に、単純明快な理由を見つけたくなる傾向があり、さらにその理由を裏付ける根拠ばかりを探してしまいます。この戦争をロシア大統領たったひとりが始めたような報道を見ていると、「本当にそうなの?」と思ってしまいます。もっとも、大統領に決定権があり影響力がとても大きいことは理解できますが、単純にひとりだけを悪者にしても、この戦争が終わるとは思えないのです。私はこの本から、問題解決には「犯人捜しではなく、原因を探すこと」の方が重要だということを学びました。そんな見方をすると、違った打ち手や解決策が見えてくるのだと信じています。

考え方の癖は心理学や社会学の分野などで様々な研究がされていますが、とても面白いものです。これからも興味を持った本はどんどん読んでいきます。